ヒグマの会40周年記念

―北海道のシンボル、ヒグマ~共存への道のり~―

■40周年記念事業報告

 1979年に創設されたヒグマの会が2019年に40周年を迎えました。この機に、北海道における人とヒグマの適切な関係を広く市民の皆様に知っていただくために1年をかけて“北海道のシンボル、ヒグマ~共存への道のり~”をテーマに掲げて様々な事業を実施しました。その目的は、1)ヒグマを北海道のシンボルに掲げる世論を盛り上げること、2)ヒグマによる人身事故を減らすための安全対策について正しい知識を普及すること、でした。本事業により、いかにヒグマが北海道のシンボルに相応しい動物であるかを市民と共有することができ、さらに北海道の豊かな生物多様性の一構成員であるヒグマのユニークな生態や、どうすればヒグマによる人身事故を回避できるかについての正しい知恵や知識を市民に浸透させることができました。

 本事業では、多くの団体や個人の方々のご協力とご支援を賜りました。厚くお礼申し上げます。

■ヒグマの会は“北海道のシンボル・ヒグマ”を宣言しました

 ヒグマの会は、40周年記念事業を通じて、ヒグマが北海道のシンボル動物であることを宣言しました。今回“北海道のシンボル・ヒグマ”をテーマに川村芽惟さんにロゴマークを制作していただきました。ヒグマが豊かな北海道の自然を代表する動物であるととともに、いつまでも人とヒグマが共存していくことを願って作られました。

■“北海道のシンボル動物道民投票”を実施しました

 ヒグマの会と札幌市円山動物園との協働で“北海道のシンボル動物道民投票”を実施しました。

結果の詳細はこちらから。


■小冊子・ポスター

 ヒグマの会では、40周年記念事業の一環として、ヒグマの生態や安全対策についてわかりやすく解説した小冊子「ヒグマ・ノート~ヒグマを知ろう~」を出版しました。また、その普及啓発のためのポスターも制作しました。


★「ヒグマ・ノート」の入手方法

無償配布分は在庫がなくなり,増刷分を1冊300円にて販売しています。

ご希望の方は、ヒグマの会事務局 発送担当 higmax7@gmail.com まで「送付先住所とご氏名・希望冊数」をご連絡ください。

下記の場所でも販売しています。

エコネットワーク(札幌市北区北9西4) http://econetwork.jpn.org/

旭川冨貴堂書店(旭川市) http://www.fukido.co.jp/

知床自然センター(斜里町) http://center.shiretoko.or.jp/

Coffee albireo(斜里町/季節営業)  https://www.facebook.com/110albireo2/

■HIGMAX2019 クマづくしの1日

開催日:2019年12月8日

会 場:札幌エルプラザホール(札幌市)

共催:日本クマネットワーク、札幌市

後援:環境省、北海道、札幌市教育委員会、北海道新聞、朝日新聞社北海道支社、読売新聞北海道支社、NHK札幌放送局、HBC北海道放送、STV札幌テレビ放送、HTB北海道テレビ、UHB北海道文化放送、TVhテレビ北海道 

協力:NPO法人北海道市民環境ネットワーク「きたネット」、北海道大学科学技術コミュニケーション教育研究部門(CoSTEP)

フィルム制作協力:北海道魚類映画社

ヒグマ・フィルムフェス&クマの語り部レクチャー 第1部

自動カメラがとらえた札幌ヒグマの実像「となりのヒグマ」/佐藤喜和(酪農学園大学環境共生学類)
世界自然遺産知床ヒグマと共に生きる人たちとの出会い/吉田美和さん(ワットムーン/ NHK札幌)・矢内智大さん(NHK札幌)
知床の野生を描く「ザ・リミット」/今津秀邦さん(ワンドリームピクチャーズ)
ヒグマってどんな動物?/佐藤喜和 (酪農学園大学環境共生学類)
札幌市のヒグマ事情/早稲田宏一(NPO法人EnVision環境保全事務所)
ヒグマとの事故を避けるには/釣賀一二三(道総研環境科学研究センター)

 

ヒグマ・フィルムフェス&クマの語り部レクチャー 第2部

NHK・ダーウィンが来た! 生きもの新伝説「世界遺産知床オスグマ王座を目指せ!」からハイライト/天野元裕さん(NHKエンタープライズ チーフプロデューサー)
HTBイチオシ!MIKIOジャーナル傑作選/阿部幹雄さん(写真家・ジャーナリスト)
アイヌの知恵に学ぶヒグマ管理/間野勉(道総研環境科学研究センター)
世界のクマ事情/坪田敏男(北海道大学大学院獣医学研究院)

 

HIGMAX落語 林家とんでん平さん

自然をテーマにした創作落語も多数。今回はヒグマをテーマにした新作落語を披露。

 

クマ笛コンサート ホラネロ

オホーツク在住の夫婦デュオ、ホラネロによる、ギターと笛の演奏会。ヒグマの骨で作った笛が、森の風を思わせる優しくて張りのある音を奏でる。

 

縦横無尽トーク

人とヒグマ、良き隣人になれる? 〜動物園に学ぶ・アイヌに学ぶ

対談 小菅正夫(札幌市円山動物園参与、前旭川市旭山動物園長)

   本田優子(札幌大学 地域共創学群教授)

 

総合司会/林家とんでん平さん(落語家)

■HIGMAX2020 ヒグマはこう変わった

開催日:2020年2月22日

会 場:札幌文化芸術交流センターSCARTSコート(札幌市)

ヒグマ映像フェス&ミニ解説

  • HTBイチオシ! MIKIOジャーナル傑作選/阿部幹雄(写真家・ジャーナリスト)
  • 浦幌の森のかたすみで/浦幌ヒグマ調査会
  • 知床の野生を描く「ザ・リミット」/今津秀邦(ワンドリームピクチャーズ)
  • となりのヒグマ 札幌のヒグマの実像/酪農学園大学野生動物生態学研究室

 

北海道シンボル動物道民投票 結果発表

 

ヒグマ博士とクマ猟師の縦横トーク「ヒグマはこう変わった」

対談:間野勉(道総研環境科学研究センター自然環境部長)

   櫻井直樹(北海道猟友会小樽支部)

 

体験展示と解説

  • ヒグマの毛皮や頭骨標本,足形,等身大パネル
  • 札幌市作成のパネル(生態・事故や被害に遭わないためのポイントなど)

■HIGMAX2020 みて さわって 親子ヒグマ教室

※新型コロナウイルスの感染拡大のため開催を中止しました。

開催日:2020年3月14日

会 場:札幌市円山動物園動物科学館ホール(札幌市)

解説

ヒグマの一年
ホネでわかる動物の暮らし

 

ミニ発表

シンボル動物アンケート結果/札幌市円山動物園
藻岩高校南区探求 高校生が草刈り!ヒグマ侵入防止の取り組み/井村直人・新川巧馬・前川隼汰・伊藤志織・清野はな・古谷薫・佐々木瑛菜・西田真生(藻岩高校南区探求)

 

体験展示「みて さわって わかるヒグマ」

 

ヒグマ映像フェス

HTBイチオシ! MIKIOジャーナル傑作選/阿部幹雄(写真家・ジャーナリスト)
浦幌の森のかたすみで/浦幌ヒグマ調査会
知床の野生を描く「ザ・リミット」/今津秀邦(ワンドリームピクチャーズ)
となりのヒグマ 札幌のヒグマの実像/酪農学園大学野生動物生態学研究室

共催:日本クマネットワーク、札幌市

協力:NPO法人北海道市民環境ネットワーク「きたネット」、北海道大学科学技術コミュニケーション教育研究部門(CoSTEP)、北海道魚類映画社

協賛:有限会社アウトバック、株式会社建設環境研究所札幌支店、サージミヤワキ株式会社札幌営業所、シティ環境株式会社、登別温泉ケーブル株式会社のぼりべつクマ牧場、北海道獣医師会、北海道和光純薬株式会社、ファームエイジ株式会社、文永堂出版株式会社、丸善出版株式会社、株式会社ムトゥ


2018ヒグマフォーラム in 標茶

―なぜ起きた人身事故~その原因と対策―

■開催日:2018年12月1~2日

■会 場:標茶町コンベンションセンター・うぃず

後援:標茶町、日本クマネットワーク

講演

なぜ、3年間に2回ものヒグマによる人身事故が起きたのか/後藤勲(北海道猟友会標茶支部)
厚岸町のヒグマ対策について/鈴木康史(厚岸町環境政策課)
白糠町におけるヒグマ被害と対策/平野雄士(白糠町経済部経済課)
ヒグマによる人身事故の概観と対策について/釣賀一二三(道総研環境科学研究センター)
標津町におけるヒグマ管理の取り組み/長田雅裕(標津町農林課)

 

総合討論

進行:佐藤喜和(ヒグマの会・酪農学園大学)

   早稲田宏一(ヒグマの会・EnVision環境保全事務所)

 

エクスカーション

憩の家~標茶町内の被害現場周辺~塘路湖~釧路駅

(2件の人身被害発生場所を対岸から遠望)

要旨集

報告

 釧路総合振興局管内では初開催となる「ヒグマフォーラム2018 in 標茶」を、2018年12月1日の13:30から標茶町コンベンションホールうぃずで開催しました。当日は最低気温が氷点下11度以下の寒い日でしたが、100名超の参加者を得て盛況のうちに終えることができました。

 北海道猟友会標茶支部長の後藤さんは、町内で発生した2件の人身被害の対応に当たられた経験をもとに、ヒグマ対策における狩猟者の役割の重要性を話されました。また、厚岸町の鈴木さんと白糠町の平野さんは、ヒグマと隣接して暮らす上で、ヒグマに対する住民の正しい理解を促進するための普及啓発、広報の重要性を強調されました。道総研環境科学研究センターの釣賀さんは、道内で発生した人身被害のデータを用いた発生要因分析から、具体的な被害回避の手法があることとその普及の重要性を話しました。そして、標津町の長田さんは、多々ある業務中の一つであるヒグマ対策への傾注リソースが極めて限られている現状の中、近隣市町村や北海道振興局、警察との堅固な連携体制の構築を課題として挙げました。

 その後の総合討論では、被害、事故発生後のヒグマ管理対応をより信頼性の高いものにするために必要なことや、発生直後の専門家による状況把握調査が被害、事故の原因特定や取るべき対策の確度を高める上で重要であり、警察や消防などとの調整が求められることなどが話題になりました。限られた時間の中での議論ではありましたが、それぞれの参加者にとって考えることがあれば、良かったと思います。

 翌日のエクスカーションは、標茶町内のヒグマ出没スポットを回り、塘路湖畔では、2015年と17年に発生た人身被害現場を対岸に臨みながら解説を聞きました。風も弱く晴天に恵まれ、悠然と羽ばたくタンチョウヅルやオジロワシを間近に見ながらの、楽しいひとときでした。

 今回のフォーラム開催に当たり、標茶町からは物心共々大きなご支援をたまわりました。記してお礼申し上げます。ありがとうございました。


標茶町で2015年1月、枝打ち中の林業作業員が襲われて死亡した現場の冬眠穴。冬眠穴のすぐ上に被害者は立ち止まったものと推察された。

標茶町で2017年4月に、山菜採りの人が子連れヒグマの攻撃を受けた現場を検証する調査員



2017ヒグマフォーラム in 登別

―ヒグマ飼育の未来~社会貢献と福祉~―

■開催日:2017年12月2~3日

■会 場:のぼりべつクマ牧場、登別市婦人センター

後援:のぼりべつクマ牧場、登別市、登別市教育委員会

エクスカーション

のぼりべつクマ牧場

 

各地域からの報告

 

フォーラム

これまでのクマ牧場とこれからのクマ牧場/坂元秀行(のぼりべつクマ牧場)
飼育下でのヒグマ研究/坪田敏男(ヒグマの会会長・北海道大学大学院獣医学研究院)
サホロ ベア・マウンテンの紹介と飼育の取り組み/佐々木和好(サホロリゾート ベア・マウンテン園長)
世界における飼育クマの福祉/Georgina Allen(Wild Welfareプロジェクト責任者)、通訳:坂元香織 

 

総合討論

チラシ

抄録集



2016ヒグマフォーラム in 遠軽

―野外レクリエーション施設のヒグマ対策―

■開催日:2016年10月1~2日

■会 場:遠軽町丸瀬布上武利 いこいの森・多目的的集会施設、丸瀬布中央公民館

主催:ヒグマの会、遠軽町ヒグマフォーラム実行委員会

後援:遠軽町

フィールド見学

遠軽町丸瀬布上武利 いこいの森

(キャンプ場を守る電気柵システム、センサー調査、背こすりの木など)

 

各地域からの報告

 

フォーラム

いこいの森を取り巻くヒグマの現状と対策/小山信芳(遠軽町丸瀬布総合支所産業課:いこいの森担当)
定山渓自然の村における野生動物対策の取り組み/山田憲克(札幌市定山渓自然の村)
電気柵の効果的な張り方とメンテナンス/神武海(サージミヤワキ)
統計から読むヒトとヒグマの関わり―オホーツク地方の30年/間野勉(北海道立総合研究機構)
厄介な野生動物を野外教育に活かす―ヒグマの場合/佐藤喜和(酪農学園大学)

 

総合討論

チラシ

抄録集


報告

 遠軽町丸瀬布でのフォーラムは好天に恵まれ、無事終了しました。

 ヒグマが生息する環境で自然体験施設を運営したり、農業を営むことの大変さを感じ、様々な工夫を知り、今後の課題も考えることができました。

 ご参加いただいた地元の方々、好奇心いっぱいの学生たち、そして、水害直後にもかかわらず、全力ご支援いただいた遠軽町、フォーラム実行委員会の皆さま、本当にありがとうございました。



2015ヒグマフォーラム in 札幌

―ヒグマと人間の未来へ―北米からの提言―

■開催日:2015年7月25日

■会 場:北海道大学獣医学部講堂

主催:ヒグマの会・北海道大学大学院獣医学研究科

(このフォーラムは伊藤組100年記念基金の支援事業です)

講演1:

開発と害獣の歴史~イエローストーン国立公園にみる人間とヒグマの関係

 

フランク・ヴァンメイネン氏 Frank T. van Manen

(前国際クマ学会会長、米国地質学調査所主席研究員)

 

オランダの大学からテネシー大学で学位を取り、米国地質学調査所入り。イエローストーン地域の省庁間統合ヒグマ研究チームを率いるリーダー。中国、スリランカなどの国際クマ調査にも尽力する。モンタナ州在住。


講演2:

北米における人間とヒグマのあつれき対策とその体制

グラント・ヒルダーブランド氏 Grant Hilderbrand

(米連邦国立公園局アラスカ地方事務所研究官)

 

海と陸の物質循環にヒグマが果たす重要性を、安定同位体を用いて解析した研究で知られる。アラスカでヒグマをはじめ野生動物全般の保護管理の研究を進め、アラスカ大学客員教授として人材育成にも努めている。


チラシ


2014ヒグマフォーラム in 森

どうする?これからのヒグマ対策

~全道のヒグマ保護管理をうけて~

■開催日:2014年11月22日

■会 場:森町公民館

主催:ヒグマの会

後援:北海道、森町、日本クマネットワーク

話題提供

北海道ヒグマ保護管理計画と道が進める人材の育成/車田利夫(北海道生物多様性保全課)
森町のヒグマ対策について/淺利誓史郎(森町農林課林務係)
猟友会の現状と町とのかかわり/尾野輝生(猟友会檜山北部)
渡島半島地域におけるヒグマ対策の現場と研究との関わり/近藤麻実(北海道立総合研究機構研究職員)

 

総合討論

地域が求める体制構築プランの提示とその遂行における課題

進行:山本牧(NPO法人もりねっと)

 

各地からの報告

札幌市におけるヒグマ調査と普及啓発の取組み紹介/早稲田宏一(NPO法人EnVision)
天塩研究林におけるヒグマの食性の季節性について/富田幹次(北大ヒグマ研究グループ)
背擦りトラップを用いらヒグマの広域モニタリング/石橋悠樹(酪農学園大学)

抄録集

報告

道南のヒグマの現状や防除体制、人材育成などを語った森町フォーラム


デントコーン畑のヒグマ食害跡を視察。クマが倒した茎が収穫後も残っている。

ヒグマの会が開発し、森町内に設置されているヒグマ対策ゴミ箱。丈夫で、取っ手にはロックがあり、クマが手を出せない構造になっている。



2013ヒグマフォーラム in 帯広

―十勝平野でヒトとヒグマの関係を考える

■開催日:2013年11月16日

■会 場:とかちプラザ

主催:ヒグマの会

共催:帯広畜産大学

 

基調講演

クマ科動物の解剖学/佐々木基樹(帯広畜産大学)

 

フォーラム

河畔林と防風林―クマ・シカ・キツネの通り道?/柳川久
人とヒグマの微妙な距離感~芽室町より/我妻修一
十勝のヒグマを知っていますか?~ヒグマによる農業被害と糞の特徴について/塚野雅彦
猟友会事務局から見るヒグマ/沖慶一郎
ヒグマとシカの微妙な関係/小林喬子
人がヒグマを太らせる?~駆除されたクマの栄養状態と駆除された場所の関係/高田まゆら

 

総合討論

 

エクスカーション

数年前の帯広市人身事故の場所視察、自動撮影カメラでクマが撮影された河畔林(芽室町)、肉牛がクマに襲われた現場(芽室町)


2012ヒグマフォーラム in 札幌

私たちはヒグマとどう向き合うか

―札幌のヒグマ問題を巡って―

■開催日:2012年11月10日

■会 場:札幌エルプラザ

基調講演

熊撃ちが語る最近のヒグマ/久保俊治(標津町在住ハンター・作家)

 

 

フォーラム

札幌市街地でのヒグマ出没状況と課題/早稲田宏一、木田慶之
札幌市周辺域におけるヒグマの分布状況/間野勉
聞き取り調査による札幌市民のヒグマ観/小川巖
南の沢地区で取り組むヒグマ対策/梶浦孝純
ヒグマトランクキットを活用した市民教育の新しい展開/坪田敏男

 

総合討論

 

地域からの報告

安全な観光エリアをめざして 遠軽町丸瀬布からの報告/小山信芳

浦幌地域のヒグマ集団における血縁関係推定/伊藤哲治

知床半島における今年のヒグマ状況/増田泰

 

エクスカーション

札幌市内ヒグマ出現地


講演録

「羆撃ちが語る近ごろのヒグマ」 久保俊治さん

 

 札幌でヒグマ出没が続き、それに関連して最近のクマの様子ということですが、札幌の騒動のようなことは、道東では何10年も前からよくあったことなんです。

 私のいる知床ですと、連山があって、沢があって、海岸がある。普通はクマは山にいますが、一部のクマがある時期、なぜか海岸に出てくるようになる。浜には漁師の家が並んでいますから、次々と目撃例がでててくる。目撃も増えるし、クマの行動も伝播するんですね。

 札幌でいえば、手稲山から西野、さらに南区へ。普通なら出没が収まる時期ではないのに、10月中にピタっとでなくなる。移動とか、伝播があるようなんです。

 今どきのクマはシカをかなりの頻度で食っています。知床では岬の草原地帯で食べる習性が生まれたのが、クマの文化みたいに広まったと考えています。

 

■しつけ悪いクマが増えた

 クマの習性という点ではこの5、6年、すごく変わってきています。ワナに簡単にかかるクマが増えている。箱ワナでも何でも、気にしないで入ってしまう。湿地で足に泥をつけて、それを気にしないで歩くから、簡単に足跡をつけられる。ほんと、母グマの教育が悪いです。それから、魚(サケマス)を捕る時も、昼間、人の見ている前で平気で捕っている。シカを獲った時、土饅頭に埋めないで、食べ散らかすクマも多い。全体に雑になってきています。シカを獲った時、なぜ土饅頭に埋めるのか。魚を獲った時は、ただ食べるだけですね。シカのような貴重な獲物は、土饅頭に埋め、「俺のものだ」と宣言する。土饅頭には、宣言する効果があると思う。それが、簡単にシカが獲れるようになり、魚みたいにただその場で食べ散らかすようになってしまった。最近は栄養がいいせいか、年齢の割に大きいクマは多い。でも、親から受け継ぐべき、もっとも大切なもの、注意力とか警戒心とか、それがなくなってきている。これは、対人間の接触でも同じことが言えます。人間を人間として認めることが少なくなっている。なめてきているんだろうか。

 

■個性の違いは大きい

 それと、クマの個性の差は大きいです。根性の悪いのと、そうでないのと。犬や猫も個性があるでしょ。クマも同じ。「クマはクマ」でひとくくりではなく、1頭1頭に違う個性がある。保護するにも駆除するにしても、そういう考えを人間の側も身につけないといけない。意識を変えてほしい。個々のクマの行動や習性をどうつかむか。これからのクマ対応は、それが重要になります。鉄筋で作った箱ワナがあるでしょ。あれに入ると、鉄に牙や爪をかけてぼろぼろになってしまう。そうなったら野生には戻せない。殺すしかない。あの箱ワナは、殺すためだけの道具です。

 今は、クマの性質がすごく変わってきている。クマはこうだ、と決めつけないで、動物の目線になって、彼らが何を考えているかを知ろうとしないと、共生なんてできないです。

 

■冬眠前の母グマ

 クマの冬眠穴は代々受け継がれ、毎年は入らないけれど、何10年おきかに使う。その穴に入る親子のクマは、足跡の付き方が全く違います。雪が降ると、母グマは子グマに穴入りの準備をさせる。食い物のないところで10日余り、じっと潜ませる。この時期の子グマを撃つと、胃が収縮して空っぽなんです。母グマは、準備が整ったら、穴に行こうと決心する。決心した母グマはフラフラ歩きません。子グマもちょろちょろしないで、びたーと必死に親について歩く。遠いときは、直線で50キロくらいは歩きます。穴の場所に近づくと、母グマは立ちあがって周りを見て、空気をかぎます。思い出をたどるようなしぐさです。そうやって、母子で穴に入ります。

 そんなクマも、最近は本当にしつけが悪い。シカやサケマスが簡単に獲れるようになって、栄養がいいのと、教育が悪いのと両方。体ばかり大きくなり、変に自信はあるが、肝心の警戒心が薄い。知床の東側に砂防ダムの下にサケがたまる場所がある。そこの通うクマは、平気で送電線の下の刈りわけ道を通ります。昔はそんなことはしなかった。ちゃんとヤブの中を歩いていました。

デントコーン畑を荒らすクマも、以前なら夜にコーンを食べ、朝には近くの山に引き揚げた。それが今は、畑に入りっぱなし。機械で収穫が始まると、やっと逃げ出す。クマが好きな私も、本当に愕然としてしまいます。

 

■過剰反応は逆効果

 札幌のクマ騒ぎは、好奇心や冒険心のあるクマが引き起こしたものだから、人身被害が起きる可能性はそれほど高くない。過剰反応するほうが、クマにも人にも良くないと思います。よく「エサ不足で出てきた」と言われるが、そんなものではない。自然界に生きるクマは、実りの豊凶に応じていろんな代替の食物をもっています。不作の年でも、斜面の北と南では「なり」が違う。クマは丹念に歩いて、それを知っています。クマの数自体は、増えても減ってもいないと思います。ただ、早く大きくなるクマが多い。シカを食うせいでしょうね。いっぽうで、山沿いにはフキを食べている小さなクマもまだいます。昔から残飯を山に捨てると、クマが味をしめて危ないと、山で生活する人はみんな知っていた。これは今も大事なことです。クマには人間関連のものを「自分のもの」と思わせないことが重要です。クマは「自分のもの」と思ったら、万難を排して取りに来る。それが危ない。私の家近くに、10年以上何もしないクマがいました。それが突然牛を襲った。牛は近くのヤブに引きずり込まれ、そこで食い荒らされていました。そのクマを駆除したら、1週間もしないで別のクマが入り込み、しかもまた牛を襲いました。このクマは、獲物の牛を埋めて土饅頭にしていました。牛を襲う行動は、1頭目から2頭目のクマにスムーズに引き継がれた。前のクマのしたことが、簡単に理解されたようです。どうやら土饅頭は「俺のものだ」という強力な宣言のようです。2頭目を駆除した後、次のクマが来るまでには1年近くかかっています。

 

■「普通」につきあう

 人間がクマとどうつきあうか。「普通」でいいと思います。クマも、個性のある生き物です。人間も考える生き物のはずです。暗くなったら気をつけよう。天気が悪いが大丈夫かな。犬にだって、この犬は機嫌が悪そうだから用心しようと考えますね。そうした感覚は、人間が大昔から持っていた能力の一つだと思います。私は狩猟をやっていて、牛飼いになりましたが、生き物を生き物としてみる、この感覚はとても役に立ちました。クマと付き合うのは、怖い、カワイイでは片付かない。普通の生き物として向き合うことが大事だと思います。私の文章で、「昔のことをよく覚えている」と言われますが、言葉や文字の記憶ではありません。山に入ってみたもの、感じたこと、みんな映像のように覚えています。そのまんま書いているだけです。

 

■くぼ・としはる ハンター、小説家。1947年、小樽生まれ。幼い時から父の狩猟に同行。米国の狩猟ガイド養成学校に学び、クマハンターを経て、知床半島の基部、標津町で肉牛牧場を営む。ヒグマとの緊張感あふれる対峙を描いた著書「羆撃ち」(小学館)はベストセラー。



2011ヒグマフォーラム in 旭川

―見る聞く考える―私たちとヒグマ―

■開催日:2011年11月5日

■会 場:旭川勤労者福祉会館

フォーラム

道産子とヒグマ/横松心平(作家)

愛護・保護・保全 共存の未来を考える/坂東元(旭山動物園園長)

身近から考える野生動物との関わり/福井大祐(旭山動物園飼育展示係長)

知床からの挑戦 ヒグマがフツーに暮らす森でのツーリズム/寺山元(知床財団、地元レンジャー)、寺田紋子(知床の森のガイド)

日本クマネットワークのベア・トランクレッスン/西澤次訓(北大獣医学研究科)、植木玲一(札幌啓成高校教諭)

 

各地からの報告

旭川、札幌、渡島半島、阿寒白糠、北大ヒグマ研究グループ


2010ヒグマフォーラム in 標津

こんな近くにヒグマが、いたなんて!?

―官民学で進める新しいヒグマ対策―

■開催日:2010年11月6日

■会 場:標津町生涯学習センター あすぱる大ホール

フォーラム

標津町におけるヒグマ対策/鈴木春彦・長田雅裕(標津町農林水産課)

ヒグマ対策におけるNPOの役割/藤本靖(NPO法人南知床・ヒグマ情報センター)

リアルタイムでのヒグマ行動追跡用発信器の開発/上野洋一((株)NTTドコモ北海道支社)

標津町でのヒグマ行動追跡の結果/坪田敏男(北海道大学大学院獣医学研究科)

知床半島全域でのヒグマ保護管理方針/野川裕史(環境省ウトロ自然保護管事務所)

 

総合討論

進行:間野勉(道総研・環境科学研究センター)

   山中正実(知床財団)

 

各地からの報告

道南地区報告/釣賀一二三(北海道環境科学研究センター)

上川町のヒグマによる家畜襲撃/佐藤文彦(風の便り工房)

丸瀬布での活動報告/岩井基樹

浦幌での活動報告ほか/小林喬子(東京農工大学)、北大クマ研

日本クマネットワークによるヒグマトッランクレッスン/坪田敏男(北海道大学)

抄録集